古代ギリシャ神話に登場するヘルメスは、翼のついたサンダルタラリアを履いて、神々の中でもひときわ素早く動き回れる存在として知られていました。
商業や旅の守護神であると同時に、盗賊や悪知恵の象徴でもあった彼は、神々の世界と人間の世界を自由自在に行き来しながら、あちこちで出来事を巻き起こしていきます。ときには神々に、そしてときには人間たちに影響を与える存在でした。
さらに、冥界とこの世の境界すらも軽々と越えてしまう彼は、死者の魂を導いたり、英雄の旅に付き添ったりと、さまざまな物語で案内役を担っているんです。
つまり、ヘルメスの伝説って、「神速の力であらゆる境界を越えていく」そんな物語だったとも言えるんですよね。
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雄鶏を従えたヘルメスがと財布(貨幣袋)を持つ像
財布は商業と富の象徴で、雄鶏は夜明けの旅立ちを示す。旅にも商売にも「境界」はつきもの。ヘルメスは「境界」を守る神として、旅人や商人の道しるべとなっていた。
出典:TimeTravelRome(著作権者) / Creative Commons CC BY 2.0 / title『Silver_statuette_of_the_god_Mercury_with_a_rooster_from_the_Macon_treasure_150-220_AD』より
ヘルメスは、全能神ゼウスとプレアデス七姉妹のひとりマイアとの間に生まれた神さま。その血筋からか、生まれつきとびきりの俊敏さを持っていたと言われています。しかもすごいのが、生まれてすぐにイタズラを始めて、なんとアポロンの牛を盗んじゃったという伝説まであるんです。ずる賢さとすばしっこさをあわせ持つ、生粋のトリックスターだったんですね。
ヘルメスは、商人や旅人を守る神さまとして崇められていました。古代では、商業の発展がそのまま都市の成長につながっていたので、彼の存在はかなり大事だったんです。
商売って、ただ物を売るだけじゃなくて、交渉や駆け引きの知恵も必要ですよね。だからこそヘルメスは、素早さだけじゃなく、機転の利く神としても信頼されていたんです。頭の回転が早くて、いろんな場面で頼れる存在だったんでしょうね。
当時の旅って、山賊に襲われたり、道に迷ったり、危険がいっぱいだったんです。だから旅に出る前には、みんなヘルメスに祈って、無事を願ったんですね。
彼は、どこへでも自由に行ける神で、道に迷った人を正しい方向に導いてくれる存在。今でいえば、カーナビとか交通安全のお守りみたいな役目だったのかもしれません。
ヘルメスのすごいところは、冥界と現世、神と人間、善と悪……あらゆる境界を自由に行き来できるという点なんです。それができるのも、彼が伝令神として抜群のフットワークを持っていたから。
神さまたちの言葉を人間に伝えたり、人間の願いを神に届けたり、そんな橋渡し役としても大活躍していたんですね。
どんな境界も軽やかに超えてしまう神──そんなヘルメスは、単なるすばしっこい存在を超えて、神話の中でもとびきり特別なポジションを持っていたんです。
つまりヘルメスは、商業や旅人を守護し、境界を越えて自由に駆ける俊敏な神だったのです。
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The Birth of Pegasus and Chrysaor
ペルセウスがメドゥーサの首を斬った際に生まれたペガサスとクリュサオールを描いた作品。ヘルメスから授かった翼のサンダル「タラリア」を履いている。
─ 出典:エドワード・バーン=ジョーンズ作/Wikimedia Commons Public Domainより ─
ヘルメスといえば、真っ先に思い浮かぶのが翼のついたサンダル「タラリア」。これを履いた彼は、地上でも空中でも風のように駆け抜けることができたんです。とにかく速い。神々の中でもひときわ俊敏で、「神速の化身」なんて呼ばれるのも納得のスピード感でした。
タラリアを履いたヘルメスは、海も山もひょいっと越えて、あっという間にどこへでも到着してしまうんです。その速さは、風や稲妻にたとえられるほど。人間にとっては、ちょっと怖いけど、すごく憧れる存在でもあったんですね。
このサンダルは、ただの移動手段じゃなくて、神速という概念そのものを象徴する特別なアイテムでした。だから後の時代の彫刻や絵画でも、翼のあるサンダルを履いたヘルメスの姿がたくさん描かれているんです。 タラリアは、彼の俊敏さと不思議な神性を象徴する“永遠のアイコン”だったんですね。
ヘルメスは、あの英雄ペルセウスにもタラリアを貸してあげたことがあります。目的は、恐ろしい怪物メドゥーサを倒すため。
空を飛べるタラリアのおかげで、ペルセウスはメドゥーサの石に変える視線をかわしながら、俊敏に戦いを進めることができたんです。
そして、ついにメドゥーサを討ち取ると、その血からペガサスとクリュサオールという新たな命が誕生することに。この場面は、神話の中でも特にドラマチックな場面のひとつで、神の力と英雄の勇気がぴったり噛み合った瞬間として語り継がれているんですよ。
翼のついたサンダルは、ただ速く移動できる道具ってだけじゃなかったんです。ヘルメスの俊敏さは、体の動きの速さだけじゃなく、頭の回転や機転の速さまでも象徴していたんですね。
たとえば商人との交渉とか、相手の出方を読んでサッと切り返す場面。そんな言葉や知恵のスピードも、彼の「速さ」の一部だったわけです。
だからこそ、ヘルメスは商業や駆け引きの神としても信仰されていたんですね。 彼の速さって、ただのスプリンター的な速さじゃなくて、「頭の良さ」や「言葉の力」を含んだ、もっと奥深いスピードだったということです。
つまりヘルメスの神速の力は、翼のサンダルによって象徴され、英雄たちを助ける源だったのです。
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冥界への案内人としてのヘルメス
翼のサンダルと使者の杖を持つヘルメスが亡者の手を取り、冥界へと導く姿を描いた葬送用レキュトスの図像。
出典:Photo by Marsyas / Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0 / title『NAMA Hermès & Myrrhinè』より
ヘルメスのすごさって、ただ移動が速いってだけじゃないんです。神話のあちこちで、彼の俊敏さは欠かせない力として描かれています。冥界とこの世を行き来したり、英雄たちをサポートしたり、神々のメッセンジャーとして動き回ったり──彼がいるから物語が転がる、そんな存在なんですよね。
ヘルメスは、魂の案内役(プシュコポンポス)としても有名です。人が亡くなると、その魂を冥界の入口まで優しく導いてくれるのが彼の仕事でした。
「死」って、どうしても怖いイメージがありますよね。でも、そこにヘルメスのような導き手がいることで、ちょっとだけ救われる気持ちになる。
境界を自由に越えられる彼だからこそ、現世と死の世界をつなぐ役割ができたんですね。怖さと安心が入り混じった、不思議な存在です。
ペルセウスの冒険を手助けした話が有名ですが、他にもオデュッセウスを助けたエピソードもあるんです。魔女キルケに立ち向かうオデュッセウスに、ヘルメスは魔除けの薬草「モリュ」を授けました。
この薬のおかげで、オデュッセウスは仲間たちを救うことができたんですね。ただ速いだけじゃなくて、知恵もあって柔軟。だからこそ、どんなピンチのときも頼れるサポーターだったんです。
ヘルメスは、神々のメッセージを人間に届けたり、人間の願いを神々に伝えたりする橋渡し役でもありました。何より動きが速いから、真っ先に命令を受け取って、誰よりも早く伝えに行けるんです。
「神々と人間を結ぶ俊敏な媒介者」──そんなヘルメスの役割は、ただの伝令じゃなくて、世界のバランスを保つために欠かせないポジションだったんですね。
つまりヘルメスは、冥界への案内人であり、英雄を助け、神々と人間を結ぶ俊敏な存在だったのです。
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