ギリシャ神話における「薬の神」といえば、まずアスクレピオスが挙げられます。アスクレピオスは「医療と治癒の神」として広く崇拝され、特に病気の治癒や薬の知識を司る存在です。彼は医学の神として人々に尊敬され、古代ギリシャでは医師たちがアスクレピオスの神殿で祈りを捧げ、医学の知識と技術を学びました。アスクレピオスのシンボルである蛇が巻きついた杖は「アスクレピオスの杖」と呼ばれ、現代でも医療の象徴とされています。
Apollo, Chiron, and Asclepius
アポロ、ケイローン、およびアスクレピオスを描いた1世紀のフレスコ画。医術の神としてのアスクレピオスの治療の知識が描かれている。
(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
アスクレピオスの父は太陽神アポロンであり、アポロンも医療や予言を司る神としての側面を持っていました。アポロンは病をもたらす一方で、それを癒す力も持ち、アスクレピオスに治療の技術と知識を授けたとされています。このため、アポロンも医療に関わる重要な神と考えられ、彼からアスクレピオスへと「癒し」の知恵が受け継がれました。
また、アスクレピオスの娘たちもそれぞれ医療や健康に関連する神々として知られています。ヒュギエイアは健康を象徴する女神で、「衛生」という概念の語源にもなりました。また、パナケイアは「万能薬」の女神として、あらゆる病を治す力を象徴しています。これらの女神たちは、アスクレピオスの知識がさらに発展し、人々の健康と生活の質の向上に寄与していたことを示しています。
アスクレピオスのルーブル館内彫像の彫刻/1860年頃、ジェンキンス作
杖を持つアスクレピオスの姿を表したエングレービング。医療の象徴である蛇が巻き付いている。
(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
このように、アスクレピオス、ヒュギエイア、そしてパナケイアは、それぞれ異なる面で「医療と薬」を司り、ギリシャ神話において人々の健康と治癒に関わる重要な存在とされていました。