
夜空にぽつんと浮かぶ天秤座。派手な星座じゃないし、大きさも控えめ。でもその形をじっと見ていると、「どうして天秤のかたちなんだろう?」って、ちょっと気になってきませんか?
じつはこの星座、ギリシャ神話に出てくる正義の女神アストライアが持っていた天秤がもとになっているんです。彼女は人間の心や行いを量るためにその天秤を使っていて、その道具が空にそのまま残された……というわけなんですね。
この天秤は、善と悪のバランスを表すもの。古代からずっと、「正義とはなにか?」を考えるきっかけになってきました。
だからこそ天秤座は、単なる星の並びじゃなくて、夜空に浮かぶ“正義のしるし”として語り継がれているんです。
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正義の女神アストライア
黄金時代の終わりに地球を離れんとするアストライアを描く寓意画。正義の秤を持っているのが確認できる。
出典:Salvator Rosa(author) / Wikimedia Commons Public Domain Mark 1.0
アストライアは、大神ゼウスと女神テミスのあいだに生まれた娘。そんな彼女は「正義の女神」として知られていて、いつも手には天秤を持っていたんです。人々の行いや心の重さを静かに量って、その正しさを見極める──それが彼女の役目でした。
秩序と公正を司る存在として描かれたアストライアは、「正義ってなんだろう?」と考えるときの理想の姿でもあったんですね。ただの神様じゃなくて、人の心に寄り添ってくれる指針のような女神でした。
アストライアが手にしていた天秤は、善と悪、真実と偽り──そんなものを見分ける道具でした。どちらかに傾けば不正があるし、ぴたりと釣り合えば、それは正義が守られているしるし。
このイメージが時代を超えて受け継がれ、のちに登場する「目隠しをした正義の女神」の姿に繋がっていったんです。天秤は単なる重さを量る道具じゃなくて、人間社会のあり方を映す“鏡”でもあったんですね。
アストライアは、神々の世界だけにとどまらず、人間たちのそばにもいたと伝えられています。正しく生きる人を見守り、不正を働く者には静かながらも厳しい視線を向ける。そんな存在でした。
秤を手にしたその姿は、ただの警告じゃなくて、「希望」のシンボルでもあったんです。人々は夜空に輝く星に、きっと「自分はどう生きるべきか」と問いかけていたんでしょうね。
母のテミスは「法」を、そしてディケは「正義そのもの」を担当していたのに対し、アストライアには「秩序とバランス」を保つ役割が与えられていました。
彼女は誰かを裁くための存在ではなく、世界全体がうまく釣り合うように見守る役目。神々のなかでもとりわけ調和を大切にする、静かで芯の強い女神だったんです。
つまりアストライアは、正義と均衡を秤に託して見守る女神だったのです。
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ギリシャ神話には、黄金時代と呼ばれる理想の時代が登場します。そこでは人々が争うことなく、自然の中で静かに、でも豊かに暮らしていたんです。正義も、秩序も、わざわざ叫ばなくてもちゃんと保たれていた……そんな世界。
その平和な時代に、アストライアは人間といっしょに過ごしていました。女神がそばにいるのが当たり前だったんですね。みんなの暮らしの中に、正義がちゃんと息づいていたから。
でも、時代は移り変わります。黄金時代が終わって、銀の時代、青銅の時代へ──
人々の心には、少しずつ欲望や怒りが芽を出し始めました。神々への敬意は薄れ、正義よりも力や利己心が優先されるようになっていったのです。
かつて天秤がぴたりと保っていたバランスは、あっけなく崩れました。
アストライアの目にも、「もう人間は自分たちで正義を保てないのかもしれない」と映るようになっていったんです。
信じていた人間たちが変わっていく姿は、女神にとってどれほどつらかったことでしょう。
それでも、ぎりぎりまで彼女は人間のそばにとどまりました。けれどもついに、限界が来たのです。
心の中で静かにつぶやいたのでしょう。「ここには、もう居場所がない」と。
この別れの物語こそ、アストライアが“最後まで人間界に残った神”と呼ばれるゆえんなんですね。
そしてアストライアは、静かに天へ昇っていきました。その姿が夜空に刻まれたのが、天秤座なんです。
彼女が持っていたあの天秤とともに、星のひとつになった──そう信じられてきました。
だから天秤座を見上げるとき、人々は思うんです。「女神はまだ、どこかで私たちを見てくれている」と。
ただの星座じゃないんですね。
正義を信じ、守ろうとした女神そのものの記憶が、あの星々には宿っているんです。
つまり天秤座は、人間界から去った最後の神・アストライアの退場を物語っていたのです。
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天秤座の星座図
乙女座と関連づけられる正義の女神アストライアの象徴として、釣り合う秤を掲げる図像で描かれる。黄道十二星座の一つで、古典星図では神話の寓意とともに表現されてきた。
出典:Sidney Hall (author) / Wikimedia Commons Public Domain Mark 1.0より
夜空に浮かぶ天秤座。その姿は、昔の人たちにとって正義のしるしであり、同時に調和の象徴でもありました。ふたつの皿がぴたりと釣り合うその形は、善と悪、真実と偽り、さらには人と神とのあいだにあるバランスまでも映し出す──そんな不思議な道具のように見えたんです。
天秤が教えてくれるのは、「どちらにも偏らないこと」。
それは古代ギリシャの人々が思い描いていた社会の理想であり、「どう生きるべきか」の手本でもありました。
もし争いや不正があれば、天秤はすぐに傾く。でも、正義や思いやりを重んじれば、ふたたび静かに釣り合う。
そんなイメージが、この星座に重ねられていたのでしょうね。
あとになって生まれた占星術では、天秤座は「バランス」や「公平」、「人間関係の調和」を意味する星座として知られるようになりました。
でもそれは、ただの占いじゃないんです。
その背景には、正義の女神と天秤の神話が、ちゃんと根を張っているんですよ。
つまり、いま私たちが見る「天秤座の性格診断」や「相性占い」も、遠い昔の神話の記憶を、しっかりと受け継いでいるというわけなんです。
今の時代でも、法廷の前には秤を手にした女神の像が立っていますよね。
あれこそ、アストライアの姿を今に伝える証なんです。
空を見上げても、裁判所の像を見ても、そこには「正しさを見失わないで」というメッセージが込められている。
だから天秤座は、現代に生きるわたしたちにとっても、ずっと変わらない“正義の道しるべ”なんです。
つまり天秤座は、調和と裁きを天に示す永遠のシンボルだったのです。
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