ギリシャ神話には、勇壮な英雄譚や厳かな神々の物語だけでなく、クスッと笑えるユーモラスなエピソードも数多くあります。以下に、特に面白いエピソードをいくつかご紹介します。
ヘルメスのいたずら、コルネリス・ファン・ポーレンブルフ作
ギリシャ神話において、伝令の神ヘルメスがヘルセを誘惑する物語を描いた絵画。デルフトの黄金時代に典型的な繊細で詳細な画風で、神々と人間の複雑な交流を描いている(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
ギリシャ神話の伝令神ヘルメスは、生まれてすぐにその機知と悪戯好きな性格を発揮しました。彼は生まれたその日に兄アポロンの家畜を盗み出し、盗んだ痕跡を消すために逆向きに足跡を残すという巧妙な手口を使いました。まだ幼いにもかかわらず、大胆な家畜泥棒をやってのけたヘルメスは、最終的にゼウスの前で裁かれるものの、その機知を気に入られて無罪放免となり、以後は神々のメッセンジャーの役割を任されました。
醜い外見と足の不自由な鍛冶の神ヘパイストスは、妻アフロディテと戦の神アレスの浮気を知って、二人に復讐を企てました。ヘパイストスは精巧な黄金の網を作り、浮気の現場で二人を捕らえて神々の前に晒しものにしました。神々の間ではこの様子が話題となり、笑いの対象になったといいます。このエピソードは、見た目に反して頭の良いヘパイストスのユーモラスな復讐劇として語り継がれています。
アポロンは美しい妖精ダフネに恋をしましたが、彼女は恋愛を嫌っており、アポロンから逃れようと必死に逃げ回りました。最終的にダフネは父である川の神ペネイオスに助けを求め、月桂樹に姿を変えてしまいます。ダフネが木に変わってしまってもアポロンの愛は止まらず、月桂樹の葉を冠として身に着けることで彼女の姿を永遠に記憶するようにしました。神々の恋愛模様に思わぬオチがついたこのエピソードは、アポロンの純粋さとちょっとした滑稽さを感じさせます。
美青年ナルキッソスはあまりにも自分の美しさに魅了され、多くの者に恋されても相手にしませんでした。そんなナルキッソスはある日、自分の姿が水面に映ったのを見て、自分自身に恋をしてしまいます。彼はその場を離れられず、最終的に飢えと渇きで命を落とし、彼の名に由来する「ナルシシズム(自己愛)」の語源となりました。このエピソードは、人間の自己愛の滑稽さと危険性を教えるものとして知られています。
豊穣の女神デメテルは、ある時クレタ島で青年イアシオンと恋に落ち、二人は野原で愛を交わしました。しかし、これを見ていたゼウスは怒り、デメテルを誘惑したイアシオンを雷で打ち殺してしまいます。この出来事により、デメテルはさらに怒りを燃やし、ゼウスに抗議したとも伝えられています。一瞬の恋が思わぬ悲劇と神々の口論を招くこの話は、ギリシャ神話ならではの人間味溢れるエピソードです。
このように、ギリシャ神話には神々や英雄たちの人間らしさが垣間見えるユーモラスなエピソードが多く、読者に笑いや教訓を提供しているのです。