夜空を見上げたとき、ちいさく寄り添って光る星たち──それがプレアデス星団。
日本では「すばる」と呼ばれて親しまれてきたこの星の集まりは、ただの美しい天体じゃないんです。
ギリシャ神話では、この星団は狩人オリオンに追われ続けた七人の姉妹。
どこまでも逃げても逃げても止まらない追跡に、ついに逃げ場をなくしてしまったとき── ゼウスが彼女たちを憐れみ、夜空に星として昇らせたと伝えられているんです。
つまりプレアデス星団は、恐怖や悲しみを抱えながら、それでも守られた存在。
見上げる私たちの心にも、どこか切なくて、でもやさしい気持ちを届けてくれるんですよね。
だからこの星団を眺めるということは、神話の時代から続いてきた「守られる希望」の象徴に出会うこと。
星たちは、夜空の中で今もそっと、私たちにそう語りかけてくるんです。
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プレアデス姉妹の群像
ギリシャ神話でアトラスとプレイオネの娘たちとされるプレアデス姉妹を描いた作品。狩人オリオンに追われ天へと上げられ、七つの星として知られるようになった。
出典:Elihu Vedder(author) / Wikimedia Commons Public domain
プレアデスは、天空を支える巨人アトラスと、海のニンフプレイオネとのあいだに生まれた七人の姉妹。
その名も、マイア、エレクトラ、タエゲテ、アルキオネ、ケライノ、ステロペ、そしてメロペ。
それぞれが神々や英雄たちと深く関わり、ギリシャ神話の中で印象的な存在として描かれていきました。
七姉妹の中でもとくに知られているのがマイア。彼女はヘルメスの母となり、知恵と俊敏さを備えた神の誕生に関わりました。
そのほかの姉妹たちも、ゼウスやポセイドンと結ばれ、星となる前から神々の血縁を持つ存在として語られていたんです。
プレアデスはただ美しいだけじゃなく、神話の核心に深く関わる存在だったんですね。
姉妹たちは、母プレイオネとともに山や森を駆け巡る姿でも描かれます。
大自然の中で育った彼女たちは、純粋さや清らかさの象徴とされ、人々からも憧れのまなざしで見られていたんです。
その姿は、森と空、神々と自然のやわらかな調和を感じさせるものでした。
「プレアデス」という名前には、「船を漕ぐ者たち」という意味があるとも言われています。
実際にこの星団は、航海の季節や方向を知るための重要な目印として使われてきました。
つまりプレアデスの物語は、神話として語られるだけじゃなく、人々の暮らしとつながる「実用の星」でもあったんですね。
空に輝く星々の中に、ちゃんと生活の知恵が息づいていた──そう考えると、星ってなんだかもっと身近に感じられますよね。
つまりプレアデス姉妹は、神々とのつながりと人々の暮らしを結ぶ存在だったのです。
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プレアデス姉妹の美しさに目を奪われたのが、屈強な狩人オリオン。
彼はその魅力に抗えず、狩人としての腕前と欲望を抑えることができなくなってしまいました。
そして、七人の姉妹を執拗に追いまわすようになるんです。
逃げ場をなくした姉妹たちは、神々の手によって天へと導かれ、やがて星の姿へと変えられていきました。
オリオンの執念深い追跡から逃れるため、プレアデスたちは山を越え、海を渡り、ひたすら走り続けます。
彼女たちの姿は「守るべきものを守るために必死で逃げる女性たち」として、語り継がれてきました。
そのひたむきさは、ただの逃避行ではなく、純粋さと尊厳を守るための戦い。
人々の心に強く残るのも、その覚悟と強さがあったからこそなんですね。
そんな姉妹たちを哀れに思ったゼウスは、彼女たちを星へと変えて夜空へ昇らせました。
もう誰にも追われることのない世界へと、そっと逃がしてあげたんですね。
そうして生まれたのが、今も空で仲良く寄り添って光るプレアデス星団。
この星を見上げたとき、人々はきっとゼウスのやさしさと救いを思い出したはずです。
でも、ここにはちょっとした皮肉もあります。
夜空を見上げてみると、オリオン座は今でもプレアデス星団のすぐ近くにあるんです。
まるで、星になってもなお、オリオンが姉妹たちを追い続けているように見える── 神話は、天体の配置そのものに物語を宿らせている。
それこそが、古代の人々が空に込めたロマンと想像力の豊かさなんですね。
つまりプレアデス姉妹の物語は、狩人から逃れるために星となった逃避と変身の神話だったのです。
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プレアデス星団(M45)
青白い恒星と反射星雲が織りなす散開星団。古代ギリシャでは星の出没が農耕の合図とされ、季節の暦と結びつけて観察された。
出典:Photo by NASA/ESA/AURA/Caltech / Wikimedia Commons Public domain
プレアデス星団は、ギリシャ神話だけにとどまらず、世界中の文化や伝承に影響を与えてきた特別な星の集まりです。
ちいさな星々が寄り添って光るその姿は、古代の人々にとってただただ不思議で、美しく、そしてどこか意味深く映ったんですね。
そのきらめきは、夜空を見上げる人の心に、そっと寄り添う希望のしるしだったのかもしれません。
昔の人たちは、星の動きをただ眺めていたわけじゃありません。
プレアデス星団の昇る時期や沈むタイミングを頼りに、航海のルートを決めたり、種まきや収穫のタイミングを見極めたりしていたんです。
つまりこの星団は、空からのカレンダーみたいな存在。
星の輝きが、日々の暮らしとしっかり結びついていたんですね。
プレアデスにまつわるお話は、ギリシャだけじゃありません。
日本では「昴(すばる)」として親しまれ、アメリカ先住民のあいだにも「七人の姉妹」の伝説が語り継がれています。
星を見て「これは姉妹だ」「仲間の魂だ」と感じる心──
それはきっと、文化を超えた人類共通の想像力なんですよね。
七つの光に物語を託したくなる気持ち、どこか懐かしくて、あたたかい。
プレアデスは肉眼で見ると、たいてい六つの星しか見えません。
でも伝説では、「一人の姉妹が恥じて隠れてしまった」って語られているんです。
そう聞くと、星たちがぐっと人間らしく感じられますよね。
遠い夜空にいるのに、どこか身近に感じられるのは、こうした物語があるからこそ。
夜空を見上げるたび、人々はあの七つの姉妹の物語を思い出してきた。
そして今も、変わらずその輝きに心を重ねているんです。
つまりプレアデス星団は、世界中の文化と暮らしを結ぶ象徴的な星だったのです。
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