ギリシャ神話における「医療の神」といえば、アスクレピオスがその代表格です。彼はギリシャ神話の中で、人々の病気を治す力を持つとされ、多くの人々から崇拝された神です。アスクレピオスの医療の象徴として、杖に蛇が絡みついた「アスクレピオスの杖」が有名ですね。この杖は、医学のシンボルとして現代でも使われており、医療従事者や医療機関の象徴として世界中で親しまれています。

 

さて、このアスクレピオスの物語は、父ゼウス（前6世紀のギリシャ神話における主神）と彼の母である人間の女性コロニスとの間に生まれたことから始まります。彼は幼少期から卓越した治癒能力を持ち、名医と称されたケイローンに師事してその才能を磨いたと言われています。そして、その驚異的な治癒能力から死者さえも蘇らせることができたとされ、死と再生の神秘に深く関わっていたのです。

 

アスクレピオスが死者を蘇らせる力を持ったことは、ゼウスにとっては非常に脅威でした。なぜなら、死者を蘇らせることは死の境界を超える行為であり、神々が支配する秩序を乱しかねなかったからです。そこでゼウスは雷でアスクレピオスを打ち、彼を神々の世界へと招き入れたわけです。この出来事によって、アスクレピオスは人間から医療の神として神格化されることになったわけですね。

 

アスクレピオスのルーブル館内彫像の彫刻／1860年頃、ジェンキンス作
杖を持つアスクレピオスの姿を表したエングレービング。医療の象徴である蛇が巻き付いている。
（出典：Wikimedia Commons Public Domainより）

 

また、アスクレピオスはギリシャ神話の中で、神々と人間の境界を超える存在としての象徴性を持っていました。彼の崇拝は古代ギリシャにおいて非常に広がり、アスクレピオスを祀る聖地や病院が各地に作られ、多くの人々が治療や健康を願って訪れたのです。特に有名なのがエピダウロスのアスクレピオス神殿で、治療のための巡礼地として賑わったとされています。