ギリシャ神話における「森の神」といえば、パンがまず挙げられます。パンは山や森、牧畜の神であり、自然の生命力や野生のエネルギーを象徴する存在です。下半身が山羊、上半身が人間の姿で描かれるパンは、アルカディアの山岳地帯を住処とし、山羊の群れや羊飼いを守るだけでなく、森や山に響く笛の音で知られています。その音色は自然の精霊とつながり、時に人間に恐怖を与えるとされ、「パニック(panic)」の語源にもなったほどです。
Pan by Arnold Böcklin/1858年
森の神パンが笛を吹く様子を描いた作品。楽しさと野生の象徴として表現されている。
(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
また、森や樹木に関連する精霊としてドリュアスやハマドリュアスもいます。ドリュアスは特に樫の木に宿る精霊で、森の中の木々と共に生きる存在とされています。ハマドリュアスは、特定の一本の木と結びつき、その木が生きている限り共に生き、木が枯れると精霊も命を終えると信じられていました。森の精霊たちは木々に命を与え、自然全体の調和を保つ重要な役割を担っていたのです。
さらに、森の守護者としてアルテミスも重要な存在です。アルテミスは狩猟と自然の女神で、森や山々を自由に駆け巡る狩人として描かれています。彼女は野生動物や森を守護し、自然の調和を保つ女神として、森の生命と結びついた存在です。アルテミスは野生動物たちの守護者であり、自然を尊重しない者には容赦なく罰を与える一方、森を愛する者には祝福をもたらすとされています。
このように、パン、ドリュアス、ハマドリュアス、そしてアルテミスがそれぞれ異なる形で「森」を司り、自然と密接に結びつく存在としてギリシャ神話の中で重要な役割を果たしているのです。