ギリシャ神話における「狩猟と月の女神」アルテミスには、多くのエピソードがあり、彼女の冷静で誇り高い性格や、純潔と自然を守る姿勢がさまざまに描かれています。以下に、特に有名なエピソードをいくつかご紹介します。
アルテミスは、最高神ゼウスと女神レトの娘で、双子の兄であるアポロンと共に生まれました。レトがアルテミスを産んだのは、追放先のオルテュギア島(後にデロス島とされる)で、アポロンの誕生よりも早かったとされています。アルテミスは兄アポロンを自ら助け出し、幼い頃から神聖な力と強い意志を持つ存在として描かれます。このエピソードは、彼女の守護者としての性質の原点とも言われています。
ゼウスとカリスト、ジャコポ・アミゴーニ作、約1740-1750年。ゼウスがアルテミスに変装してカリストを欺く瞬間を描いた作品。豊かな色彩と詳細な表現で、神話の物語と情感的な裏切りを表現している(出典:Wikipediaより)
アルテミスに仕える美しいニンフのカリストーは、純潔を誓っていましたが、ゼウスの誘惑により彼の子を身ごもります。このことを知ったアルテミスは怒り、誓いを破ったカリストーを罰しました。彼女は熊の姿に変えられ、後にゼウスの計らいで天に上げられ、「大熊座」となりました。この物語は、アルテミスが誓いに対して非常に厳格であり、純潔を何よりも重んじていたことを象徴しています。
アクタイオンは、狩りをしていた途中で偶然アルテミスが水浴びをしている姿を見てしまいました。怒ったアルテミスは、彼を鹿に変えるという罰を与え、アクタイオンは自分の猟犬たちに襲われ命を落とします。このエピソードは、アルテミスの純潔へのこだわりと、見られることを許さない神聖さが表れているエピソードです。
巨人の狩人オリオンはアルテミスと親しい間柄でしたが、オリオンの存在を危険視したアポロンが策略を用います。ある日、遠くの海を泳ぐオリオンを標的と誤解したアルテミスが矢を放ち、オリオンは命を落としてしまいました。悲しみに暮れたアルテミスは、彼を天に上げ「オリオン座」にしました。このエピソードは、アルテミスの感情と悲しみが深く表現され、神としての姿と人間的な感情が交錯する物語です。
アルテミスはトロイア戦争において、兄アポロンと共にトロイア側を支援しました。戦争の前、ギリシャ軍の指導者アガメムノンがアルテミスを怒らせたために風が止まり、艦隊はトロイアに出発できなくなりました。これを解決するため、アガメムノンは娘イフィゲネイアをアルテミスに捧げるという選択を迫られます。しかし、アルテミスは直前でイフィゲネイアを救い、彼女をタウリケの神殿に送りました。このエピソードは、アルテミスの厳しさと慈悲深さの両面を示す話として語り継がれています。
このように、アルテミスは純潔と自然の守護者であると同時に、容赦のない裁きを下す厳格な女神であり、その神聖な力はギリシャ神話において多くの物語を生み出しました。