ギリシャ神話における「復讐の神」といえば、最も代表的なのがネメシスです。ネメシスは「正義の復讐」と「報復」を司る女神で、特に人間の傲慢さや不正を罰する存在とされています。彼女は、神々の秩序や公平さを守る役割を持ち、誰かが高慢や不正な行為を行った際に、それに見合った罰を与える力を持っています。そのため、ネメシスは単なる復讐者ではなく、秩序を守る「復讐の女神」として崇められました。
ネメシスは、「適切な報い」を与える役割を担うことから、ギリシャ神話では「神々の正義を実現する存在」と見なされていました。彼女の力は、誰もが平等であることを意識させ、高慢や横暴を戒める役割を果たしていたのです。ネメシスは、公正な復讐を象徴することから、時に人々に畏怖されつつも、正義の守護者としても敬意を集めていました。
Nemesis by Albrecht Dürer/1502年頃
復讐の神ネメシスを描いたデューラーのエングレービング。正義と天の裁きを象徴する秤を持つ。
(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
また、エリーニュス(複数形でエリーニュスたち、あるいは「フューリー」とも呼ばれます)も復讐の神々として有名です。エリーニュスたちは、特に家族や血縁者間での罪を罰するために冥界から現れる恐ろしい女神たちで、殺人や裏切りといった大罪に対する復讐を行います。彼女たちは罪を犯した者をどこまでも追いかけ、報いを与えるまで決して逃がさない存在として恐れられていました。エリーニュスたちは、特に母殺しや父殺しなどの「血の罪」を厳しく罰し、罪の意識に苛まれる者を追い詰めることで知られます。
このように、ネメシスとエリーニュスたちは、ギリシャ神話において復讐と報復の象徴でありながらも、それが正義や秩序を守るためのものである点が特徴的です。