ギリシャ神話における「川の神」といえば、まず代表的なのがオーケアノスです。オーケアノスは川の神々や水に関する神々の「祖」とされる存在で、世界を取り巻く巨大な川を司る原初の神とされています。オーケアノスはタイタン神族の一柱であり、テーテュースとの間に多くの河川神をもうけました。オーケアノスは川や海洋にかかわる神々の源泉とされ、あらゆる川の始まりを象徴する神です。
また、ギリシャ神話には、個々の川を司る河川神たちも数多く存在し、彼らはポタモイと総称されます。ポタモイはそれぞれ特定の川や水域を守護しており、各地の人々から信仰されました。たとえばペネイオスはテッサリア地方ペネイオス川の神、アケローンは冥界を流れる悲しみの川の神、アルペイオスはギリシャ本土のアルペイオス川を司る神として知られています。ポタモイは川の流れを守護するだけでなく、周囲の自然や人々に影響を与える存在として重要視されていました。
アポロンとダフネ by Nicolas Poussin
アポロンに追われる娘ダフネを月桂樹に姿を変え、そのことを嘆き悲しむペネイオスが描かれている
(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
さらに、冥界の川として特別に崇拝されるのがステュクスです。ステュクスは誓いの川とされ、神々でさえステュクスに誓えば絶対に破れないとされています。ステュクス川の神聖さは絶対的であり、オリンポスの神々もこの川に誓うことで誓約を守るようにしていたのです。このため、ステュクスは冥界だけでなく、神々の間での「信義」の象徴でもありました。
このように、オーケアノス、ポタモイ、そしてステュクスといった川の神々は、それぞれ異なる形で水の流れを司り、人間や神々の生活に深い影響を与えていたのです。