ギリシャ神話における「美と愛の女神」アフロディテには、多くのエピソードがあり、彼女の美しさや愛の力が神々や人間の世界に影響を与えました。以下に、特に有名なエピソードをいくつかご紹介します。
アフロディテは「海の泡」から誕生したとされています。ウラノスがクロノスによって倒された際に、海に落ちたウラノスの体から生じた泡から、アフロディテが美しい姿で現れたと伝えられています。このため、彼女は海と結びつき、特に海の神々からも愛される存在となりました。また、彼女の美しさは瞬く間に神々の間で知られるようになり、オリンポスで崇拝される存在となります。
コンスタンチン・マコフスキー作『パリスの審判』
トロイの王子パリスがヘラ、アテナ、アフロディテの中で最も美しい女神を選ぶことを求められた神話。アフロディテが最終的に勝利し、ヘレンの愛をパリスに約束した。(出典:Wikimedia Commons Public Domainより)
トロイア戦争の発端となった「パリスの審判」は、アフロディテのエピソードの中でも有名です。結婚式に招かれなかった不和の女神エリスが「最も美しい女神に」と刻まれた金の林檎を投げ込んだことで、アフロディテ、ヘラ、アテナの三女神がその美を競い合うことになりました。若きトロイア王子パリスが審判を任されると、アフロディテは彼に「最も美しい女性ヘレネを与える」と約束します。パリスはこれを選び、アフロディテに林檎を与えました。この出来事が、後にトロイア戦争を引き起こす原因となります。
アフロディテは、火と鍛冶の神であるヘパイストスと結婚しますが、彼女は戦の神アレスとの情熱的な恋愛関係を持つことでも知られています。アレスとの密会がヘパイストスに知られると、ヘパイストスは二人を罠にかけ、黄金の網で捕えます。神々の前でその様子がさらされ、笑いものにされましたが、アフロディテの美しさは衰えることなく、彼女の愛の力と魅力が神々の世界でさらに強調されることとなりました。
アフロディテは、地上の美青年アドニスに恋をします。アドニスは狩りを好んでいましたが、アフロディテの警告を無視し、狩りの途中で巨大な猪に襲われて命を落としてしまいます。彼女は深く悲しみ、アドニスの死を悼んで涙を流しました。その涙は美しい花に変わり、春に咲く「アネモネ」として記憶されるようになりました。アドニスの死と復活を象徴とするこの物語は、季節の移り変わりや再生を象徴するエピソードとしても知られています。
キプロスの王ピュグマリオンは女性に失望し、自ら理想の女性像を彫刻し、ガラテイアと名付けます。ピュグマリオンの深い愛と願いに心を動かされたアフロディテは、この彫像に命を吹き込みました。ガラテイアは人間として生を受け、ピュグマリオンと結ばれることとなります。このエピソードは「真実の愛の力」が奇跡を起こす象徴として語り継がれています。
このように、アフロディテは美と愛の象徴として、ギリシャ神話において数多くの物語に関わり、神々や人々の運命を動かしていたのです。